理事長ご挨拶
一般社団法人 日本耳科学会
理事長 小島博己
令和6年10月開催の日本耳科学会総会にて理事長を拝命しました。皆様とともに耳科学を盛り上げ、その発展に尽力したいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
近年の科学の進歩には目覚ましいものがあります。耳科学ももちろんその流れの中にあり、手術機器や人工聴覚器の進歩、AIとの関わり、再生医療や遺伝学的アプローチ、分子生物学的視点など、様々な領域で発展し、また、発展し続けることを社会からも望まれています。
先日、恐竜の化石の研究に関する興味深い記事を読みました。北極圏で発見された恐竜の潰れた頭蓋骨をCTで3D再構築し生態を検討したというものです。この恐竜は低周波数が聞こえやすく、平衡感覚に優れ、鋭い嗅覚を持ち、敏捷に動き、これらの能力は湿地や沼地などの不安定な地形での生活や、捕食者からうまく逃れる術として役立っていたそうです。1つの潰れた頭蓋骨の化石からここまでわかるのかと感銘を受けました。こういう大きな発見も、まずは、興味をもち調べてみようとするところから始まります。化石を発掘するだけではなく、湧いてくる疑問を現代の技術を使って調べていくことで、太古の昔に地球上を闊歩していた生物の姿が明らかになっていく、そういう過程は、とてもわくわくすることでしょう。
医学の発展も、日々の診療や実験室での気づきなどが発想の起点となり、bedside to bench、bench to bedside 研究となっていきます。このような研究を推進するために学会が行うべきと考えていることが幾つかあります。一つは学会のさらなる国際化です。世界の耳科学者が、臨床的にも基礎的にもお互いに刺激し合い協力しあってこそ科学の発展に寄与できると考えます。学会という組織だからこそ可能となるビッグデータのとりまとめとその解析にも力を入れたいと思います。そして、日本耳科学会から新規医療を多く発信し、そのために必要な支援も行いたいと思います。また、耳科学を盛り上げ発展させていくためには、教育も非常に大切です。近年盛んとなっているシミュレーション教育やVRを用いた手術教育などは、若手教育の有効なツールです。耳科学の魅力を伝えるために学会としても積極的に取り入れたいと考えます。
耳科学にはまだまだたくさんの疑問や謎があり、治療法を待つ患者さんが世界中にいます。一人でも多くの方に耳科学の魅力を伝え、臨床・研究・教育への寄与に励み、耳科学を盛り上げて、耳の疾患に悩む多くの患者さんのために貢献できるような学会を目指したいと思います。