平成28〜令和元年度理事長ご挨拶

村上信五

2020年(令和2年)、日本耳学会(JOS)は設立30周年を迎えます。1991年(平成3年)に日本臨床耳科学会と日本基礎耳科学会が統合して設立され、足掛け30年になります。偶然にも韓国耳科学会(KOS)も設立30周年を迎え、7月にソウルで開催されるKOS総会で、Memorandum of Understanding(了解覚書)を交わす予定になっています。これは両学会の継続的な人的・学問的交流を推進するための覚書ですが、昨年の山形総会(欠畑誠治会長)を見ても日本耳科学会の国際化は年々活発になってきています。今年の第30回総会・学術講演会は山口大学の山下裕司教授が会長を務め小倉市で開催されます。設立30周年記念式典も含め、日本耳科学会の新たな方向性を示す斬新な企画が期待されます。ここで、少し懸念されることは新型コロナウイルス感染の動向です。昨年末に中国の武漢市でアウトブレイクした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、2月3日横浜港に寄港したクルーズ船「ダイヤモンド プリンセス」を契機に、我が国でも拡大し、4月7日には緊急事態宣言が発出されました。それに伴い、東京オリンピックはじめ国内外の学術集会のほとんどが延期あるいは中止を余儀なくされています。一刻も早い新型コロナウイルス感染の終息と第30回日本耳学会総会・学術講演会が予定通り開催できることを祈願しております。

新型コロナウイルス感染という世界的な社会不安の中にあっても、日本耳科学会は将来を見据えて着実に新たな制度を整えております。念願の耳科手術指導医制度が4月から始まりました。本制度の発足には足掛け10年という長い年月を要しました。平成20年のサブスペシャルティ委員会における「耳科診療のあり方」から始まり、「耳科専門医」、「耳科手術専門医」、そして、最終的に「耳科手術指導医」という技術認定の制度に至りました。本制度の目的は、耳科手術の質を担保して国民に安全で高度な医療を提供し、耳科領域の専門性を目指す若手医師を指導、育成することです。今年の初年度は耳科手術暫定指導医141名と92の耳科手術認可研修施設を認定することができました。本制度を活用し、耳科手術のレベルを高めるとともに、耳科領域の診療を魅力的なものにしていただきますようお願いいたします。それから、新規医療として鼓膜穿孔の再生医療であるリティンパ耳科用250μgセットが昨年11月に保険収載されました。また、耳管開放症治療である耳管ピンも今年度中に薬事収載される予定になっています。今後はTEESの保険収載、突発難聴や顔面神経麻痺等に対するステロイドの鼓室内投与、Device Lagとなっている医療機器の早期導入などに取り組んで行きたいと考えております。

夢を追いつつ、現実の課題を少しずつ解決していきたいと思いますので、会員の皆様にもご協力いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。